I WANNA BE

このあいだ医科歯科大のオープンキャンパスで病理実習を体験させていただき、その次の日には太田病院で医師体験という名の病院巡りをし、進路についてあらためてグダグダ考える機会を得ました。まあ将来どうしようかなーみたいなしょうもないことはいつもいつも考えてはいるのですけど。
私は*1なにを隠そう医者志望だったりします。学力さえ追いつけば、同年代と比較してそれなりに明瞭なビジョンがあると思っています。一方、いろいろなひとからこう言われるのも確かです。「ふみなしは文系の方が向いているよね」
今回は、私が医学部に行ってお医者さんになりたい理由と、文系科目および文系学部へにゆらいでいる理由をすこし大げさに書こうと思います。これは事実を元にしたフィクションです。これは事実を元にしたフィクションです。


医学部編

「医師免許欲しいなー」と思いはじめたのは小学生のころでした。それが小学校何年生のころかは覚えていません。小一だったかもしれないし、小五だったかもしれません。六年生のときそうやって考えていたのは確実なのですが。さいしょの理由は短絡的でした。
テレビか何かでお金がない人の話をしていたのだろうと思います。

お金がないのはいやだな→お金持ちになりたいな→お医者さんになればお金持ちになれるかな→お医者さんになりたいな

もともと手術シーンに苦手意識はなかったどころか食いついて見ていたし、驚くほど不器用というわけでもなかったし、まあなれるだろと思っていました。ちいさいころ男の子がプロスポーツ選手に、女の子がお花屋さんやお菓子屋さんになりたいと思うのと同じように、私はお医者さんになりたいなあと思っていました。

目下医師以外に魅力的な職業もなく、オフィスレディなんてありふれたつまらないように思える仕事も嫌でした。私は、自分の将来をなんとなく意識し始めるまで、ぼんやりと*2お医者さんになりたいという考えを持ち続けていました。


中学一年生の三学期に、生物の授業でカエルの解剖がありました。これが私の勘違いに火をつけてしまったように思います。
四人一組の班に分かれたところ、誰も切りたがらなかったのでこれ幸いと執刀医(笑)の立場につきました。哲学書を数冊かじった今の私なら、きっと動物の倫理についていまひとつ考えるトリガーになったでしょう。しかしそのころの私は、人間と他の生物との種の違いは絶対的なもので、それを理由にすれば医療行為による動物虐待のようなこともそんな複雑に論じるものじゃないだろうと単純に信じていました。ひとつの班にいっぴきのカエルがあてがわれます。アルコールで眠らせたカエルを木の板に釘を打って固定します。うっすら透明がかったようにみえるお腹にメスを縦に引きます。いくらか線を入れて、皮をめくります。びくびく動く内臓が見えます。ゆっくりと伸縮をする肺が見えます。

これはひょっとすると練習すれば人間でもうまく切っていけるんじゃないかなー。

どくどく波打つカエルの心臓を見ながら勝手に自身に適性を感じた私は、そのときから医師という職業を自分の進路のひとつとしてかっちりあてはめるようになったと思います。とはいえ、はっきりした就きたい職業なんて、中一のときからずっとそれしかないのですけれど。


お医者さん以外注意を向けようとも思わなかった時代、さらにその職業へのあこがれを増す出来事(事件かもしれません)がありました。
中三のとき、母方の祖母が自宅でくも膜下出血*3を起こしました。夏休みでした。部活に行くために小田急電鉄に乗っていた私は、家にとんぼ帰り。実家のある四国にすぐ飛行機で行って、軟禁状態の一ヶ月を過ごしました。そのとき私が何を経験したかは今どうでもよいのですけれど。
祖母は血瘤をプラチナコイルで埋めるという手術*4をしました。太ももの大腿動脈という太い動脈から脳の出血が起こったところまでカテーテルを通して、少しずつコイルを入れていったそうです。手術中、コイルの様子を見るために逐一脳のCTかレントゲンを撮るので、確かに少量ではありますが、周りの人は放射能あびまくりです。私にとって、その手術は途方もないような作業でした。治す側の体へもノーリスクではないのだと聞いてややぎょっとしました。

そんな手術に慣れるものなのだろうか、自分の身を危険に晒してまで人を治すというのはすごいな、私もそのようになりたいな

そんなふうに当時考えたのを覚えています。

祖母は現在仕事を休んでいます(あたりまえ)*5。後遺症も特にありません。時々高血圧から来る頭痛の頻度が高くなったくらいです。それも最近はあまり気にならないほど回復したと聞いています。
術後すぐの文字を思い出してみると、出血のダメージからか達筆な祖母にはありえないような汚さだったのですが、定期的に届くお米やお中元の横流しに同封された、きれいな字の短い手紙を見て、「くも膜下出血起こした人間とは思えないよなあ」としみじみ感じたことです。


高一になって、五月祭で理三のひとと少ししゃべったり、情報収集を本格的にしだしたり、医科歯科のお兄さんたちと話したりして少しずつ医学部に行く理由を固めてきています。

第一に、私は仕事がしたいのです。大学で結婚し、二十代前半で子供を生むことができるならまだしも、私はそこまで器用な人間ではないので若くとも二十五くらいまでは結婚することもないと思うのです。それまでは私は仕事をして、実態のない社会と関わりを持って生きていたいのです。それから結婚して、子供ができても、幸い私の両親は孫の面倒をみたくてみたくてたまらないようなので、そこまでハードな仕事でなければやめることもなくそれなりに続けていけることができるんじゃないかと甘く考えています。やめたくて仕方がなかった仕事なら、出産を理由にやめればいいだけのことです。その暁にはきちんと育児に専念するつもりです。
できれば出産後も仕事を続けていきたいと思っているものですから、ぼちぼち続けていけるような仕事をしたいのです。病院勤務はハードですけれど、クリニックモールやメディカルビルなどで、先生をやることくらいなら子持ちでもできる気がするのです(病院勤務より楽そうに思えるのは、ひとえにリサーチ不足なのかもしれませんが)。数年病院勤務を続けてからでも構いません。私にとって、診療所で人を診るのがちょっとした夢なのです。
そうなると、最近医学部は六年制ですから、うまくいけば二十五くらいで研修医です。それまでに結婚出来れば万々歳ですけれどそんな人生うまくいくはずないので、うまくいったところで結婚は三十くらいになってしまうかもしれません。私としては二十五前後で結婚したいので、そうできるように努力したいけれど、勉強が厳しくておそらく恋愛まで手がまわらないでしょう。順調に行ったところで、頑張らなきゃならないのは受験前も受験後も一緒です。その時々に応じて、僕らはずっと戦い続けなければなりません。

文系編

そこで文系の話です。
私は人文科学と社会科学、学部で言えば文学部、経済学部、経営学部、人文学部などに興味があります*6。実際に社会を動かしていくのは理系ではなく文系です。確かに理系は生活の基礎基盤を作るものが集まっています。けれど、それだけです。人間の好奇心を広げていくこと、社会の土台を強固にしていくこと、理系の仕事はそういうものです。文系は理系が作ってくれたものの上で働きます。舞台裏より舞台で踊る人間のほうが目立つのは当たり前です。私は多くの人に影響を与えられました。私もなるたけ多くの人に影響を与えられるようになりたいのです。私みたいな人間がいること、私というサンプルを頭の中に入れて欲しいのです。そこから各々のケースに当てはめて、私自身の人生から何かしらを学び取って欲しいのです。このような事例から何がわかるでしょう。何があなたをよりよくさせるでしょう。そうやって考えて欲しいのです。無駄なら無駄で構いません、知らなければ無駄かどうかもわかりません。多くの人に私が何をしてどう生きているか知ってほしい欲が、私にはあります。
医学部を選択して医師免許を獲得して臨床医になれたところで、その生い立ちを多くの人に知られる機会なんてまず掴めないじゃないですか。確かに医者をやりながら本を書いたり、別の大きな世界に関わったりして、多くの人に知られるチャンスを獲得している人はいます。けれど、私は体力もないし、タイムマネージメントも下手だし、自分自身の要領の悪さは自負しているので、そんな器用なことはできません。私には情報発信に傾くか、ひたすら人を診ていくかしかできないと思います。医学部に進学してしまえば、私はそんなに賢くないですから、日々勉強で自分のやりたい医学に関わらないことなんて何も出来ないでしょう。けれど、文系に進めば医学部よりは時間が出来るし、前述のことができるような卒業後の進路だって在学中にみえてくるかもしれません。その場合、今のところ大学を出たあとのことはあまり考えていません。関連知識が不足しているので、どうなるやらさっぱりわからないのです。

これは賭けです。文系に進んだほうが、自分のよりやりたいものができるかもしれないというだけです。ひょっとすると、そのいちばんにやりたいものどころか、その次にやりたいものすら出来ずに機会を無碍にしてしまうかもしれません。私は賭けがあまり好きではありません。いくらかある選択肢のうち、どうなるかわからない不明瞭なものを選ぶことはまず私がいちばん厭うものです。ゆえに*7、私はいま医学部の方に傾いています。だから私はこちら側の進路についてあまり考えていないのかもしれません。医学部に進んでひとつのものを諦めるか、文系に進んでひとつのものを諦めるか、結局は同じことなのですが、それぞれに目移りしてしまって確実には決められないでいます。

In Addition

今のところ、文系と比べて医学部に傾いている理由には大きくこれらのものがあります:

  1. 理転より文転の方がしやすいから
  2. 幅広く職業を選べる文系は収入にもバラつきがあるけれど、医者なら大体の目安がつくし、文系よりも就きやすくて安定なイメージがあるから*8
  3. 文系は就職が大変で好きな職業を選ぶことができないかもしれないけれど、医学部ならまず自分のやりたい医療関係の仕事ができるから

だけど医学部ではできないであろう自分のやりたいことがどうしても目の前にちらついてしまって決断できないでいます。幸い時間はあるし、もっと悩んでいこうとは思っているのですが……*9 *10

*1:なんとなくぼくはとはじめたくなりました

*2:女の子がお花屋さんにあこがれを持つのと同じように

*3:調べてみるとわかると思うけど、致死率がとても高い病気です

*4:血管内コイル塞栓術というみたいです

*5:辞めないところに復帰してやるという根性が見え隠れして、祖母にはかなわないなあと思ってしまいます。彼女は若くて、定年前ですし、そんなものなのかもしれません

*6:興味のある学部はこれだけじゃないのですけど(国際学部とか)、すごくすごく行きたかったり、好きな中でも現実的に選ぶ価値のあったりするものを選んでいます

*7:他にも理由はあるのですが(次の文章のまとまりでちょっと触れます)

*8:本当に安定するのかもしれませんが、今のところ調査不足で単なる自分の妄想でしかないから「イメージ」です

*9:こうして五月くらいからずっと進路のことを本気で考えています

*10:ちなみに文系の学部についてお話すると、本当に自分がいちばんやりたいとするであろうものは文学部か人文学部/学科です。進路の話をtwitterでしていたら、「世界ねらえる学部の方がいいよ」って政経をおすすめされて、二番目にやりたい経営/経済学部を本気で考えるようになりました。経営学ばかりに興味があるのですが、本当にそれを選択して「これは自分には合わなかったんだ!!」って後悔するようにはなりたくないので、しばらくはどんなことをやるのか調査しなきゃいけないなーとか思っています。おすすめの本とか、論文とか、学部のことを簡単に説明してくださる人とかをほんのり募集していたりします。